坂の由来
ふむ、合羽坂か。この坂の名には、面白いことに二つの説が伝わっておってな。一つは、坂の南東にあった「蓮池」という大きな池に由来する話じゃ。大雨の夜、この池からカワウソが現れることがあり、それを見た村人たちが「河童が出た」と勘違いしたことから、この名がついたという。標高差6.5m、173mほどの坂じゃが、素直に一方向へ下っておる。
もう一つの説は、もっと現実的でな。坂のそばにはかつて尾張藩の大きな藩邸があり、雨上がりにその塀沿いへ、雨具である「合羽」を干していたことに由来するという。河童か、それとも雨合羽か——新撰東京名所図会にも「かっぱと思いしより坂の呼名と…転じて合羽の文字を用い」と記されておるが、はっきりとした結論は出ておらん。じゃが、どちらの説にせよ、この一帯がかつて湿地帯であったことを物語っておるのは間違いなかろう。
坂の頂上には由来を記した大理石の碑が、坂の麓には河童を模した大理石の椅子が置かれておる。伝説の生き物が、今もこうして坂の姿として残っておるというのは、なかなか粋な話じゃとわしは思うぞ。
